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メディア掲載情報

新エネルギー専門雑誌「ソーラーシステム」に当社寄稿連載記事「太陽光発電 とソフトウェア」が掲載されました。

2003/01/10

雑誌「ソーラーシステム」掲載 連載記事
2003.01.10


雑誌「ソーラーシステム」に2回に分けて(第90号、第91号)掲載されました当社寄稿連載記事「太陽光発電とソフトウェア」の全文をご紹介します。計測ソフトウェアの理解にお役立てください。


「太陽光発電とソフトウェア-1」
「ソーラーシステム」第90号掲載

シミュレーションソフトウェアについて

株式会社ラプラス・システム
代表取締役 堀井雅行


ソフトウェアが主役

今回より太陽光発電システムとコンピュータソフトウェアとについて2回に分けて説明させて頂きます。

まずソフトウェアとは何でしょうか。ソフトウェア、ハードウェアと言う言葉はコンピュータに限らず、幅広く使用されていますが、ここではパソコンでの話に限定しますと、パソコン本体やプリンター、CRTなどの周辺機器など、形のある物をハードウェア、パソコン上で動作させるプログラムやデータなど形のない物がソフトウェアです。

よくパソコンの解説書などでは、ハードウェアを制御して動作させるのがソフトウェアだとなっています。確かに機能的にはそうかも知れませんが、これだとソフトウェアはハードウェアを動作させるための付属品、おまけみたいです。果たしてワープロソフトがパソコンを制御して動作させているのでしょうか?

使用目的から見れば、パソコンの世界では。明らかに立場は逆転して、ソフトウェアが主役です。パソコン(ハードウェア)はソフトウェアを動作させる為の道具であるとも言えると思います。

図1



あらゆる分野に広がるシミュレーションソフトウェア

パソコンで使用するソフトウェアにはいろいろな種類があります。ワープロソフトや表計算ソフト、画像編集ソフト、データベースソフト、プレゼンテーションソフト、ゲーム、インターネット閲覧ソフト、電子メールソフト、などです。

さてソフトウェアの種類の一つにシミュレーションソフトがあります。シミュレーションとは模擬実験と訳されますが、近年特にパソコンの性能が進歩し、計算速度が向上した事もあり、様々な分野で活用されるようになりました。ローン返済シミュレーションのように単に面倒な計算を簡単に実行してくれるもの、フライトシミュレーションのように現実では危険を伴うもの、交通量シミュレーションのように簡単に実験出来ないもの、気象シミュレーションのようにそもそも実験が不可能なもの、バーチャルリアリティもその一種ですし、最近では競馬やプロ野球ペナントレースまでその応用範囲は広まっています。

このようにシミュレーションソフトは、実際に実験を行うことに比べて、コスト、安全面、要する時間、条件を変えて何度でも繰り返し行えることなど、様々なメリットがあります。

最初のコンピュータと言われるENIAC※1も大砲の弾道計算を目的に開発されたと言われています。シミュレーションはコンピュータが最もその真価を最も発揮できる分野のひとつであると言えます。

※1コンピュータの定義にもより、諸説有ります。



太陽光発電システムのシミュレーションは大変重要

さて、太陽光発電においてもシミュレーションは重要です。いったいどれだけ発電するのかも分からずにシステムを設置する人は居ないでしょう。もちろん気象条件によってその発電量は大きく左右されますので、来年の発電量を言い当てることは出来ません。しかしながら、かといって精度の高い根拠のあるシミュレーションを行い予め発電量を予想する努力を怠れば、いずれは設置者からの不信感を招き、社会的に認知されなくなり、太陽光発電システムの本格的普及促進の阻害要因にもなりかねません。

さらに、設計に自由度がある場合には、シミュレーションにより最大の発電量を得られるような最適な設計をすることが可能になり、より効率的なシステムの設置が可能となります。


まずは簡単な計算から

それでは実際に太陽光発電システムの発電量はどのように計算するのでしょうか。

まずは簡単に計算するために、次の条件を入力することが必要です。

①太陽電池の容量
システムの発電能力を表すもので、使用する太陽電池モジュールの最大出力×モジュール枚数で計算されます。

②傾斜角
太陽電池の地面に対する傾きで、緯度にもよりますが30°程度が最適です。

③方位角
太陽電池を設置する方向で、当然真南が最適です。

④設置場所
地域によって日射量や気温等、気象条件が異なります。

⑤パワーコンディショナ変換効率
直流から交流に変換する際の効率です。

⑥低減係数
温度や太陽電池表面の汚れによる低減率です。

これらから年間の予想発電量は次のように計算されます。

年間発電量(kWh)=太陽電池容量(kW)×年間日射量(kWh/㎡)×変換効率(%)×低減係数(%)

ここで年間の日射量は、日本気象協会がNEDOからの委託研究によりまとめた「発電量基礎調査」より求めます。場所、傾斜角、方位角、月毎のデータが記載されています。

例えば場所を京都、容量3.0kW、傾斜角30°、方位真南、変換効率、92%、低減係数83%として計算すると、年間の発電量は3.0×1386×0.92×0.83 = 3175kWh となります。


問題山積で複雑な計算が必要

なんだ、これならシミュレーションソフトなど使わなくても電卓で十分計算できると思われるかも知れません。確かに目安程度ならこの計算でも良いのですが、より正確な計算、また様々なシステムに対応しようとすると、話はそう簡単ではありません。

では上記計算では何が不十分なのでしょうか。

■ 多面設置
図2の寄棟屋根での設置のように、全ての太陽電池モジュールが同じ方向を向いているのではなく、複数の傾斜角方位角がある場合、全体の発電量は、各面の発電量を上記式で計算した値の合計にはなりません。

なぜ、そうなるのでしょうか?パワーコンディショナは太陽電池から最大の電力を引き出すように負荷を制御しているのですが、南面の電池から最大の電力を取り出す設定が必ずしも東面にとっては最適とはならず、あくまで全体として最適になるようにしているため、各面毎にパワーコンディショナを設置しているのでない限り、発電量は各面で個別に設置した場合の合計よりも小さくなります。※2 

ではそれはどのように計算すればよいのでしょうか?。

ここでは詳しく述べることは出来ませんが、厳密に計算しようとすれば複雑な計算式を解く必要があり、手計算では困難です。それでも例の寄棟の場合はまだ低減率の目安となる値がありますが、図2のアーチ型の様な複雑なシステムとなるとお手上げです。

※2最近では多面設置に対応したパワーコンディショナも発売されています。


■日陰の影響
太陽光発電にとって日陰は大敵です。しかしながらそのために日陰の元を取り除けることは稀で、特に都会ではその影響は避けて通れません。それではそれはどの様に計算するのでしょうか?

前記の式では日陰の影響の項目はありませんでした。我が家では日中の半分くらいが日陰になるのだが、それによる年間の発電量の低減率は何%なのか?残念ながらそのような値を計算することは出来ません。計算式自体も存在しません。

まず日陰自体を計算するのが大変です。興味のある人は3次元の幾何学を思い出して計算してみて下さい。(図3)

次に日陰の影響は、例えば半分のモジュールが影になり、その部分の日射が半分になったとして低減率は25%かと言えばそうではありません。太陽光発電システム全体の出力はモジュール1枚毎の出力の合計値にはなりません。1枚のモジュールの出力低下が全体に影響を及ぼしますので単純には計算できません。またモジュールの配線との関係もあり、日陰の面積にも必ずしも比例しません。





■温度の影響
ほとんどの電気機器と同様に太陽電池も温度が上がると性能が落ちてしまいます。それではその影響はどの程度でしょうか?

前記の式では汚れや電気的損失と一緒に低減係数としましたが、NEDOの標準の計算式ではもう少し詳細に温度による低減率が明示されており、6-8月20%、3-5月、9-11月15%、12-2月10%、となっています。しかし考えてみれば随分とアバウトな値です。3、4、5、9、10、11月が同じ温度と言うこともありますが、一日の朝夕と昼とでは温度は異なるはずです。太陽電池の温度は日射の無い夜間はほぼ気温と一致しますが、夏場の日中などは70℃を超えることもあります。これを一律に低減率として扱うと言うことは、やはり目安として考えるべきでしょう。

尚、太陽電池の発電効率と温度との関係は様々な研究がなされており、またカタログに記載されているものもあります。

■傾斜角・方位角
前記計算式では気象協会の資料を用いましたが、これには方位角は15°単位、傾斜角は10°単位でしか記載されておりません。

ところが、実際の家屋の屋根の傾斜角は寸勾配で表されることが多く、中途半端な値となりますし、また北面のデータは無く、やはり正確な計算には不十分です。

■パワーコンディショナの変換効率
パワーコンディショナは太陽電池から最大の電力を取りだし、それを家庭で使える交流の電力に変換してくれる重要な機器ですが、その際変換によるロスが生じます。その値はカタログに記載されており、前記計算式では92%としました。

しかしながらこの値も実際にはその時の発電状況により変動します。また起動停止条件や最大電力の取り出し方にも個別の違いがあり、厳密にはこれらを考慮しなければいけません。


■時変動・季節変動
以上が、正確な発電量を計算するに当たっての主な問題点ですが、これらを解決して計算できたとしても、それは、有る一瞬についての発電電力が計算出来たに過ぎません。

夏と冬、朝夕と昼とでは日射や太陽の位置が異なり、当然その影響度も異なりますので、上記の各項目毎に年間の平均低減率を求めることは困難です。

従って年間発電量を計算するには365日の日中につき、せめて1時間単位で計算し、それを積算する必要があります。


やはりシミュレーションソフトウェアが必要

このように、正確な根拠のある発電量の計算をしようと思えば、到底手計算では不可能です。また実験するには膨大なコストと時間が必要です。

そこでシミュレーションソフトウェアの出番となるわけです。
当社の太陽光発電シミュレーションソフト「Solar Pro」は上記の問題に全て対応しています。また実はこの計算は人間だけではなくコンピュータにとっても大変な計算なのですが、高速に処理しすることが可能です。

それでは実際にシミュレーションソフトを用いて発電量を計算してみます。例えば図のようにビルの屋上に架台を組んだ場合など、架台の同士の影、隣のビルの影響、パラペット、機械室の影響など様々な条件を変更して簡単に計算することが出来ます。

これにより最適な架台の間隔や、架台の高さなどを設計することが可能となります。また隣のビルが無かった場合と比較してどれだけ違うのかといった様々な解析が行えたり、年間だけでなく夏至や冬至などの1日の発電推移を見ることも出来るなど、設置者はより安心納得してシステムを導入することが可能となります。(図6、7参照)





今後は各種システムを統合した総合シミュレーションが重要

地球温暖化問題はますます深刻になっています。京都議定書も批准され、今後太陽光発電システムを始め再生可能エネルギーを普及促進させることは必須となりました。

約束した削減率を守るためにも、その発電量の正確な予測は大変重要です。発電量が予測できなければ計画も立てられません。またこれからは必ずしも設置が好条件でなかったり、複雑なシステムの物件が増えることが予想され、簡易的な計算では対応できなくなるとケースも増加すると思われます。

さらに将来的には、個別の物件だけではなく、風力発電、太陽熱温水器、コージェネレーション、バイオマス、なども含めた、日本全体のトータルなシミュレーションが必要であり、当社では微力ながらそれらについて鋭意開発中であります。 

次回は計測ソフトウェアについてご説明させて頂きます。


>>「太陽光発電とソフトウェア-2」
「ソーラーシステム」第91号掲載